最高裁判所第三小法廷 昭和31(オ)1057 判決
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人D、同杉松富士雄、同加藤福蔵の上告理由第一点について。
論旨は、原審において、上告人の妻Eが日常家事につき有する旧民法八〇四条所
定の代理権を踰越して、上告人所有の本件建物を被上告人に売渡した事実を認定し
て居るとし、これを前提として、原判決に審理不尽又は理由不備の違法、民法一一
〇条、同七六一条の解釈に関する限り、判例違背があると主張する。
しかし、原審が所論の如く事実を認定して居るとするのは、原判決を正解しない
所から出たのである。原審はかゝる事実を認定して居るのではなくて、夫たる上告
人が職業軍人として南方への出征に際し、妻たる右Eに対し後事を託し日常家事に
つき代理権を授与した結果、右Eがその権限を踰越して本件建物を被上告人に売渡
した旨を認定したものであること、原判決を熟続すればよく諒解せられる。
論旨は結局、原判決に添わない独自の見解に立つて原判決を非難するに帰するの
であつて、理由がない。
同第二点について。
論旨は、原審に民法一一〇条に関する解釈の誤り、判例違背があり、審理不尽理
由不備の違法があると主張する。
しかし、原審は、上告人が職業軍人として昭和一九年六月前述の如く南方への出
征に際し妻たる右Eに後事を託し日常家事につき代理権を授与したものであること、
右Eがその権限を踰越して本件建物を被上告人に売渡したものではあるけれども、
第一審判示の如き経緯、事情状況であつたため、被上告人においては右Eに本件建
物を売渡す権限を有するについて何等の疑念を抱かなかつたことを認定して居り、
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右認定は首肯し得られるのであつて、かゝる事実関係の下にあつては、被上告人が
右Eに夫たる上告人を代理する権限ありと信ずるにつき過失ありとなし難いものと
した原審の判断は、是認し得られる。
本論旨第三に引用の大審院判例は、第三者が代理人にその行為をする権限ありと
信ずるにつき過失ある場合であつて、代理権ありと信ずるにつき過失ありと認め得
ないとした原判決は、この判例に牴触するものではなく、引用に係る自余の判例は、
何れも事案を異にする本件には適切でない。
論旨はすべて、理由がない。
よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとお
り判決する。
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 石 坂 修 一
裁判官 島 保
裁判官 河 村 又 介
裁判官 高 橋 潔
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